第1章

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「ここ、禁煙ですよ」 「あれ。ああ、張り紙も見えてなかったよ、ごめんね」 「いえ」 「何の本を読んでるの?」 「文学小説ですよ。母が読んでいました」 「ふうん」 「ナンパですか?」 「はははっ。こんな寂れた駅で巡り合った男女二人、これは運命に違いないって? 僕から見れば君なんか子供だよ」 「そうですか」 「で、どうして君はここにいるんだい?」 「それは……、母に会うためです」 「ふうん」 「私の母は、三日前にこの本を抱いて死にました。薬を飲んだんです」 「……」 「私は母のことが好きでした。言葉ではひどく罵ったけど、それで私自身の心すら偽ったけど、母が亡くなってやっと気付いたんです」 「それでここに来た訳か」 「薬はまだ残っていました。それで……」 「もうすぐ列車が来るよ。これに乗れば君は悠久の向こうさ」 「母に会えるなら、たとえ戻れなくなっても構いませんよ」 「はぁ……、今日は親子か」
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