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「ここ、禁煙ですよ」
「あれ。ああ、張り紙も見えてなかったよ、ごめんね」
「いえ」
「何の本を読んでるの?」
「文学小説ですよ。母が読んでいました」
「ふうん」
「ナンパですか?」
「はははっ。こんな寂れた駅で巡り合った男女二人、これは運命に違いないって? 僕から見れば君なんか子供だよ」
「そうですか」
「で、どうして君はここにいるんだい?」
「それは……、母に会うためです」
「ふうん」
「私の母は、三日前にこの本を抱いて死にました。薬を飲んだんです」
「……」
「私は母のことが好きでした。言葉ではひどく罵ったけど、それで私自身の心すら偽ったけど、母が亡くなってやっと気付いたんです」
「それでここに来た訳か」
「薬はまだ残っていました。それで……」
「もうすぐ列車が来るよ。これに乗れば君は悠久の向こうさ」
「母に会えるなら、たとえ戻れなくなっても構いませんよ」
「はぁ……、今日は親子か」
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