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アニメでも漫画でも小説でも映画でもない、現実に在るヒロインを、自身の中の記憶のフィルムへと焼き付ける。
「ヒロインは死んじゃいけない」
彼女はそう、冒頭の言葉を繰り返した。
「睦月(むつき)にとってのヒロインって、誰?」
楽しそうに、嬉しそうに。
知っていて聞いて来る彼女は、一体どうしたいのか。
聞いてどうするのか。真実だと知って、どうするのか。お前がヒロインだと言われて、どうするのか。
わからない。わからないことだらけ。
彼女にはまるで全てがわかるようで。
俺にはまるで何もわからない。
不公平だ。でも、不公平だとは感じない。
何故なら彼女は、ヒロインだから。
容姿端麗で眉目秀麗、運動神経抜群で人気者、誰にでも分け隔てなく接して誰にでも好かれて。
まるでヒロイン。
何があってもおかしくない。どんな能力を持っていてもおかしくない。どんな重い過去があってもおかしくない。
不公平を不公平だと思わせないヒロイン。
俺の中の唯一一人の、ヒロイン。
「物語では決まって、ヒロインがピンチになると主人公が助けてくれる。そうでしょ?私ね、ヒロインにはあれこれ言ったけど、主人公にはたった一つの条件だけでなれると思うんだ。たった一つって言っても、そのたった一つがなかなかに難しいんだけどね」
ずばり、と立てられる人差し指。
絵になるそのポージングの後、彼女はきっぱり言い切った。
「土壇場勝負の成功率」
凛と、はっきりと、しっかりと、きっぱりと。
響いたその主人公の条件はあまりに当然なようで、あまりに無理難題な条件だった。
「私はヒロイン。自惚れじゃなくて、睦月の中で確かに私はヒロインっていう役にいるでしょ?じゃあそんな。そんなヒロインの私が選ぶ主人公は、ヒーローは、誰だと思う?」
彼女はその問いかけをした後、暫く口を開かなかった。
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