第1章

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 アニメでも漫画でも小説でも映画でもない、現実に在るヒロインを、自身の中の記憶のフィルムへと焼き付ける。 「ヒロインは死んじゃいけない」  彼女はそう、冒頭の言葉を繰り返した。 「睦月(むつき)にとってのヒロインって、誰?」  楽しそうに、嬉しそうに。  知っていて聞いて来る彼女は、一体どうしたいのか。  聞いてどうするのか。真実だと知って、どうするのか。お前がヒロインだと言われて、どうするのか。  わからない。わからないことだらけ。  彼女にはまるで全てがわかるようで。  俺にはまるで何もわからない。  不公平だ。でも、不公平だとは感じない。  何故なら彼女は、ヒロインだから。  容姿端麗で眉目秀麗、運動神経抜群で人気者、誰にでも分け隔てなく接して誰にでも好かれて。  まるでヒロイン。  何があってもおかしくない。どんな能力を持っていてもおかしくない。どんな重い過去があってもおかしくない。  不公平を不公平だと思わせないヒロイン。  俺の中の唯一一人の、ヒロイン。 「物語では決まって、ヒロインがピンチになると主人公が助けてくれる。そうでしょ?私ね、ヒロインにはあれこれ言ったけど、主人公にはたった一つの条件だけでなれると思うんだ。たった一つって言っても、そのたった一つがなかなかに難しいんだけどね」  ずばり、と立てられる人差し指。  絵になるそのポージングの後、彼女はきっぱり言い切った。 「土壇場勝負の成功率」  凛と、はっきりと、しっかりと、きっぱりと。  響いたその主人公の条件はあまりに当然なようで、あまりに無理難題な条件だった。 「私はヒロイン。自惚れじゃなくて、睦月の中で確かに私はヒロインっていう役にいるでしょ?じゃあそんな。そんなヒロインの私が選ぶ主人公は、ヒーローは、誰だと思う?」  彼女はその問いかけをした後、暫く口を開かなかった。
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