0人が本棚に入れています
本棚に追加
俺の答えを待っていたのかもしれない。いや、かもしれないじゃなくて、そうなんだろう。
わかっていても、俺には答えることが出来なかった。だって俺は主人公でもなければヒーローでもない。彼女の中ではどこにも役付けられない、ただのサブやモブといったところだろう。
だから、わからない。
ヒロインの彼女の考えなんて。
俺には何一つわからない。
「誰だよ」
たった一言。
俺は彼女に問い返すことしか出来なかった。
でもそんな俺に、自分で思うくらいに無愛想な問いかけに。
彼女は今日一番の綺麗な笑顔を浮かべ、夕日を全身に浴びながら嬉しそうな声を張り上げた。
「睦月しかいないじゃん!」
俺には彼女の言うような【土壇場勝負の勝率】なんて持ち合わせていないし。生憎顔も特別よくなければ、性格だって捻くれている。
ただそんな俺の中で、ヒロインに確立していた彼女への気持ちだけは歪みなく純粋に在ることを、俺自身感じていた。
この日、この瞬間、この一時。
確かに彼女はヒロインで、俺は主人公だった。
でもそれはただの虚言で、大嘘で、幻想だったのかもしれない。
俺達は直ぐに、ヒロインや主人公という大役を降りることとなる。
彼女がヒロインらしからぬ死に方をし、俺が主人公らしく助けられなかった。
ただそれだけ。
それだけで、俺は折角彼女が付けてくれた役を降りることになり。
それだけで、俺は彼女自身と俺の中のヒロインを失うこととなったのだ。
ヒロインは、呆気なく消失してしまったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!