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「とりあえず彼女に彼氏がいるかどうかですよね」
ちょうど昼のこの時間なら学食に彼女も現れるかもしれない。
俺と雄大は在学生を装ってここでランチを食べながら、彼女の友達を把握し、尚且つ彼氏らしき人物がいないかをチェックすることにした。
俺は大学に行っていないから、この学食というものに遭遇したことがない。
高校は購買か弁当だったし、以前勤めていた会社は大きくないから食堂はなく休憩室だけで、その休憩室も営業の俺は数えるほどしか利用しなかった。
雄大の後ろにぴったりとついて、見よう見真似で食事の準備を進めていく。
「き、緊張する」
「大丈夫だよ。ここでかい大学だし。バレても何か大変な事態になんてならないから」
そうは言われても気分は不法侵入者だ。
至って自然に振舞えている雄大とは大違いに、キョロキョロとしてしまって、これじゃ自分で不審者ですって言っている気もするけれど、どうにも落ち着かない。
「これって人選ミスだと思うんだけど」
そう雄大にだけ聞こえるように呟いた。
大学に潜入するなら、恒星さんでも大丈夫だったんじゃないだろうか。
金髪の大学生なんてそんなに珍しいものじゃない。
あの美形は目立ってしまうかもしれないけれど、今の俺のように不審者として目立つよりはマシな気がする。
俺の呟きを聞いて、少し寂しそうにした雄大が口元でだけ何かを呟いた。
最近はぎこちないだけでなく、話し声さえ小さくなってきている雄大は近くで耳を傾けていないと聞き取れないことがある。
ごめん――そう呟いたような気がして、意味がわからず顔を上げると、苦しそうに目を逸らされてしまう。
「雄大?」
「恒星のほうがよかったよね」
「? まぁ……そのほうがよかったとは思うけど……」
一層表情の暗くなった雄大はもうその後呟くこともなく、トレイに自分の分の食事を乗せていく。
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