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ヒーローショーの俺達の名前も決まったし、穂果も納得してくれたし、まだもう少し先のお楽しみ会を園児以上に俺が楽しみで仕方がない。
「譲! 今日は雄大お兄ちゃんは?」
「いるよ、外で待ってる、って穂果! まだ帰る準備終わってない!」
「もう~早く~」
早く雄大のところに行きたい穂果の首根っこを捕まえて、帰りの支度を一緒にする。
早く早くと急かす穂果は玄関口をチラチラと見ていた。
「あ、佳苗ちゃんのお母さんだ」
振り返るとスーツを着て仕事帰りそのままに靴を脱いでいる。
ちょうどよかった。
お楽しみ会のことが少しずつだけど進んでいることを報告しておこう。
脚本もそんなに時間も掛からないだろうし、衣装だって着々と出来上がってきている。
「こんばんは」
「ぁ……こんばんは」
少し声に元気がないかな、と見上げると、真っ青な顔をしている。
「大丈夫ですか?」
「ぁ、はい、すみません。あの、お楽しみ会の……」
どう見てもそんな話をしていられるような感じじゃない。
いつもは延長保育の時間になるのに、今ここにいるのだって早退したのかもしれない。
「それより風邪ですか?」
「あ、いえ、大丈夫です」
「大丈夫じゃないですよ」
真っ青だし何より声が完全に風邪を引いている人の声だ。
隣で佳苗ちゃんの荷物を棚から出している手も少し震えている。
「旦那さんは……」
そんな家庭のことを同じ保育園の保護者が訊くべきじゃないけど、どう見たって高熱があるし、スーツってことはそんな状態で仕事にとりあえず行っていたんだろう。
早退するくらいに体調が悪いんだ。
旦那さんに任せたほうがいいと思ってしまった。
「すみません」
「……ないです」
「え?」
「いないです。離婚したので」
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