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不躾なことを訊いてしまったと謝ろうとした時、ちょうど佳苗ちゃんが扉から飛び出した。
こんな時間にお母さんが迎えに来てくれたのが嬉しくて、はしゃいでいたけれど、お母さんを見つけるなり、子どもにもわかる体調の悪さに一気に心配そうな顔をしている。
「お母さん?」
「大丈夫、ほら、先生にさようなら言って」
ふらふらと立ち上がった彼女はどう見ても大丈夫なんかじゃない。
「ご両親は? 誰か看てくれる」
首を力なく横に振った。
それだけでもフラフラするのか、思わず壁に手を付いた彼女が倒れないよう、手を掴めるところで待機している。
「実家は遠いので」
穂果とふたりだと自分が体調が悪くなるのは本当にしんどいし困る。
寝込むことなんて出来ないし、穂果にも移らないように気を使いながらの家事は大変なんだ。
きっと佳苗ちゃんのお母さんだってそうだ。
ずっと仕事で忙しそうだったのは、ふたり暮らしになったからだ。
佳苗ちゃんも穂果と同じように頑張っている。
お母さんも頑張っているから。
「穂果、行くよ」
「うんっ!」
穂果はすぐにヒロインに変身して佳苗ちゃんに笑顔で一緒に帰ろうと話し掛けている。
彼女に肩を貸すことは出来ないから、自分の分と荷物を持って先を誘導した。
熱で朦朧としながらも遠慮をしている彼女も、荷物を俺が持ってしまっているから一緒に来るしかない。
「雄大!」
保育園のすぐそばには雄大が立っていて、俺達四人を見るなり、何かあったんだと察知してくれる。
「佳苗ちゃんのお母さんが体調悪いみたいなんだ。俺、病院に連れて行くから、雄大はうちに穂果と佳苗ちゃんと三人で」
「あ、あのっ! そんな大丈夫ですから!」
「すぐそこの大通りならタクシー拾えます。そこまで歩けます?」
雄大はすぐに佳苗ちゃんの目線にしゃがんで、優しい声でお母さんのことを説明してあげている。
「おせっかいだとは思いますけど、穂果の友達のお母さんなので、俺も友達です」
「あの……」
「早く元気にならないと」
それが一番重要なんだ。
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