第84章 最強の敵

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ヒーローが活躍するには強大な敵が必要だ。強くて敵いそうもない敵……つまり怪獣だ。 その適役を誰にするかと悩んでいると、ソルレンジャーというカッコいい名前の名付け親である猪野君がまたしてもアイデアを出してくれた。 「ぼ、僕、あの理沙さんがいいと思います」 相手は女の子、女子大生でそれを実際は五人とも男だけれど、設定上は四人のヒーローとヒロインの五人で寄って集って懲らしめるのはどうなんだろうって思う。 でもそれが理沙となると、皆、唸りはするものの猪野君の意見に異議を唱える人は現れなかった。 何せ相手は猛獣肉食系理沙だ。 海斗君に告白された時は笑顔だったのに、雄大が“社長”だとわかると、掌を返したように態度を一変させて、“社長”に飛び付く肉食系だ。 恒星さんにあれだけ邪魔に扱われても、全然気にすることもなく襲い掛かろうとする猛獣なんだ。 敵役としては申し分ない。 というか五人が掛かっても実際には勝てる気がしない。そして満場一致で敵役は理沙になってしまった。 「はぁ? 何、チョー忙しい中、わざわざ私を呼びつけておいて、何言ってんの?」 「いいじゃん。ギャオーって叫ぶの得意じゃん」 「うるさい。ガキンチョ」 交渉役は海斗君以外には勤まりそうもない。 猪野君が一歩どころか三歩も四歩も後ろで、その交渉を応援していた。 今日は珍しく恒星さんも来ていて、もうあと猪野君の衣装をこれから取り掛かれば全て完成というところまで辿り着いていた。 五人分なんて本当に大変だろうに、それを短期間ですでに四人分をほぼ終わらせるなんて、やっぱり職人さんはすごい。 五人分揃ったところで披露したいと恒星さんが言っていたから、まだ着ていないけれど、きっとすごくカッコいい衣装なんだろう。 今も手縫いでしか出来ない部分持参で、机に向かって黙々と作業を進めている。 理沙と海斗君の交渉はまだ続いていた。 このあいだ悪戯をされてから猪野君は理沙が苦手だ。 それでなくとも男女問わず初対面の人と話すのが苦手だから、あんなふうに苛められて、弄ばれればもうビクビクだ。 猪野君じゃなくても苦手かもしれない。 でも話してみれば彼女にも良い所はたくさんある。
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