第84章 最強の敵

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「んで、まず理沙がいつもどおりに猛獣っていうか怪獣として暴れる。で、それを俺達が退治する」 「なんで退治されなきゃなんないんだよ」 「まぁまぁ。で、俺達が理沙を囲む、ほんの数秒だけどね。そのあいだに理沙はドギツイメイクを落としてすっぴんになって、はいナチャラルな可愛い女の子に戻りました~チャンチャン♪ っていう設定」 「はぁ? チャンチャン♪♪ じゃないっつうの! なんで私がすっぴん晒さないといけないんだよ!」 「はい、恒星!」 その掛け声に小さく溜息を付いた恒星さんは、顔を上げると端整な美形を綻ばせて笑顔を向けている。 「すっぴんも可愛いと思うよ」 「え? えぇ♪」 一瞬で猛獣が可愛く頬を染めた。 と、同時に自分の役は終わったと、素早く椅子に座り直し、さっき以上の集中力で作業を進めている。 なるほど……どうして忙しい恒星さんが作業をしながらも、わざわざ事務所に顔を出したんだろうって思ったけれど、このためだったのか。 「ね? 恒星もああ言ってるし、子どものために! お願い!」 両手を顔の前で合わせて、拝むように頼み込んでいる海斗君に、作戦に引っ掛かった猛獣理沙は嬉しそうにコクンと頷いた。 了解を経て一番喜んでいるのは、意外にも猪野君で、このあいだ苛められた仕返しが出来たと小さく可愛らしいガッツポーズをしていた。 俺も理沙のすっぴんは可愛いと思う。 普段は濃いメイクで睫なんて瞬きする度にバサバサと音がしそうなほどだけれど、お嬢様に変身した時のナチュラルメイクは可憐で可愛らしかった。 理沙は段取りを説明され、出来る限りの時間で稽古に付き合ってくれることになった。 すっぴんに関しては当日しか絶対に見せないからと、ヒーローでさえ知らないトップシークレットとなった。 お楽しみ会の日が着々と近付く中、仕事の合間を縫って、皆で芝居の稽古をする。 それはまるで子どもの頃の学芸会のようにわくわくしてしまう時間。
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