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「はぁ~超楽しかった!」
園児や保護者の方々だけじゃない。
俺達も本当に楽しかった。
「猪野もよく噛まなかったな」
ホワイトのヒロイン用衣装を着て、女の子だから顔はメイクをしたままの可愛らしい猪野君が控え室で棒立ちになっている。
「猪野?」
どうかしたのかと海斗君が歩いて行こうとした時、扉がノックされて、数秒後に先生が顔を覗かせた。
「よかったまだ着替えの前で。あのお疲れのところ申し訳ないのですが、撮影会をお願い出来ますか?」
「撮影会、ですか?」
「はい。園児と一緒に握手しながらとか……時間の都合があればお願いしたいなって」
「勿論です!」
勢い良く立ち上がった雄大は急いでマスクを手に取る。
まさに子どもの時に見たヒーローショーのようだ。
握手会付きだなんて、これは雄大にとってはまさに夢だったかもしれない。
撮影会に向かおうと皆がマスクをもう一度つけ直す中、猪野君はまだそこに立ったまま。
「猪野君?」
俺もどうしたのかと心配になる。覗き込むと、頬がメイクで付けた色ではなく、ほんのりと赤く染まっている。
「理沙さん!!」
突然、声をひっくり返しながら、理沙の名前を呼んでその近くへとギコギコと音がしそうな歩き方で近付いていく。
「んあ? 何?」
理沙はすっぴんになったばかりの顔をまた作り直そうとゴテゴテと装飾の付いた鏡に向かっていた。
すっぴんの理沙は予想外に普通の子だった。
派手な感じはどこにもなくて、本当に至って普通の女子大生。
お嬢様メイクをしていた理沙はすごくナチュラルだったから、あの顔がすっぴんに近いのかと思っていたけれど、本当のすっぴんはそれ以上にナチュラルだった。
本人は化粧をしていないのが恥ずかしいらしく、いつもの猛獣肉食系の姿を見せずに、もじもじとしながら鏡から視線を外さない。
普段なら「何だよ」と言いながら、無遠慮なくらいにじっとこっちを見るし、おかまいなしに話しているのに。
そんな理沙に、海斗君に押されながら嫌々でも労いの言葉を掛けようと恒星さんが歩み寄った時だ。
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