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メールで別れ話って……しかもそれなのにあんな軽いノリで話してたんだ。
今時の子ってこうなのかな。
穂果はそうならないようにしっかりと育てよう。
そう決意を固めていたところに扉が勢いよく開いた。
まるで扉ごと飛んでいってしまいそうな勢いで飛び込んで来た人は、泥だらけでそこかしこに擦り傷を作っている。
高校生が社長と呼ぶと、太陽みたいに明るい笑顔でこっちへ駆け寄ってきた。
「ごめん! ちょっと落っこちた。あっ面接の方ですよね?」
「……は、ぃ」
「はじめまして」
明るくて青空みたいな爽やかな声、それに太陽みたいな笑顔、俺よりも若そうなその人が社長みたいだ。
手を差し出して、はっと泥だらけなのに気が付いて、服で拭いてみたけれど落ちるどころか余計に泥だらけになってしまい慌てている。
「あ、これどうぞ」
咄嗟に差し出したタオルは穂果が保育園で使っていたもので、穂果の物ってわかるように名前と一緒に穂果のマークでもある向日葵のフェルトが縫い付けてある。
義姉さんが付けてあげたものだ。
「……や、それは汚せないんで」
「あ、いえ、大丈夫です。汚れたら洗えばいいんだし」
それにもうずっと使っていて、シミだらけだし……って逆にそんなタオルを差し出したこと自体が失礼だったかもしれないって、少し後悔した。
でも社長は俺の一言にニコッと笑って、礼だけ言うと一度外に飛び出てから、顔と手だけ洗ってきたようで濡れたまま戻ってきた。
「それじゃあお借りします」
「あ、どうぞ」
濡れた顔と手をそのタオルで拭いて、太陽みたいな笑顔が一層明るくなった気がする。
「洗って返しますね」
「え? あの、でも」
面接……まだ始まってもいないんだ。
落ちたらそのタオルを取りにまたここに来るのはちょっと気まずい。
かといって持ってきてもらうのはもっと気まずい。
「面接、合格です」
「はぁ……え?」
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