第1章

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 どんどん遠くに行ってしまう上村の乗るボートを眺めて真央は大きく息を吐いた。 「え、俺に? いいの」 「はい・・・鍵拾っても私のって分からなかったでしょう? わざわざ探して届けてもらったお礼です」  「ああ、いやそれは・・・高校の艇庫の近くに落ちてたし、多分そうだろうなって思って・・・」  今回も上村の方からやって来た。真央が差し出した小さな包みに戸惑った表情を浮かべて、参ったなと呟きながら頭に手をやった。 「そんな高いものじゃないですよ。私アルバイトしたことないし、本当にお小遣いの範囲で買える物ですから」 「それを聞くとなお悪いような・・」 「・・・」  どう言えば受け取ってもらえるのか、バレンタインのチョコすら男の子にあげたことが無い真央にとって難問だった。 「・・・じゃあ今回は遠慮なくもらうけど、こんな事もうしなくていいから。俺一応年上だし、バイトだってしてるし」  ありがとうとぼそり呟いて、上村は真央から包みを受け取った。  三日間バッグの中で大事に仕舞われていたプレゼントがやっと上村の手に渡り、真央は安堵の息をついた。 「軽いね・・・中身、何?」  上村の大きな手のひらの上でブルーの包みがポンと跳ねた。 「タオルです。男の人にプレゼントって何も思いつかなくて・・・。父の日とかだったらかなり適当に選ぶんだけど、今回は結構迷いました」 「へぇ・・そうなんだ。────開けていい?」 「どうぞ。嫌いな色とか柄じゃないといいんですけど」  ビリリと紙を破く音が響いた。 「おっ緑色か。俺そんなイメージ?」 「ダメじゃないですか?」 「うん、自分じゃ多分選ばない色だから逆に新鮮。ありがとう」  言いながら包み紙と一緒にバッグに仕舞う上村を見ていて、真央は三日間胸の中にわだかまっていた物を吐き出すように口を開いた。 「ずっとこっちで練習じゃなかったんですか?」  どうして付き合い始めた次の日から会えなかったのか、他にも聞きたい事が幾つかあったが真央はぐっと言葉を呑み込んだ。 「それは・・・俺らって、今試験の真っ最中。大会もあるから何とか日程を調整して水に入るようにもしてるけど、毎日は厳しいんだよね。ごめん言ってなかったっけ?」 「試験、ですか・・」  
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