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『だからよろしくないって!それにだ、お前のご先祖は、お前自身が助けに行くべきじゃないのか。俺が行ったところで、何をしに来た?他人に助けてもらう義理はないとか言われたら、その時点で途方にくれちゃうよ。戦国時代で途方にくれたら、これはどえらいことだよ。わかる、俺の言ってる意味が…?』
そんなことなどおかまいなく、無理矢理ドアノブを持たせると少年は、
『さあ未来のために!』
そう高らかに叫んだ次の瞬間、青白い閃光に包まれたかと思うと、
アッとと云う間に意識を失った。
一人の若者が真っ白な法被を着て、歌を口ずさみながら庭を掃除している。
その背中には小さな菱形が四つ組合わさり、一つの大きな菱を型どる紋が威風堂々とした感を漂わせ刺繍されていた。
『勝って嬉しい花いちもんめ。負けて悔しい花いちもんめ。箪笥長持ちあの子がほしい…』
若者はそこまで口ずさむと、手を止め物悲しく空を見上げた。
『唄ばっかり上手になっても、戦には勝てませんよ』
そこへ年の頃なら17・8歳といったところか。美人ではあるが、いかにも気の強そうな女性が、肝っ玉母さんのようななお付きの女性を連れて、階段を降りて来た。
『これは松姫様!』
箒を後ろに構え、若者は慇懃に礼をとった。
『また掃除ですか。そのようなこと、女子か、もっと下々の者がすること。どうしていつもそなたがしているのです?』
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