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肝っ玉母さんがすかさず、
『小平太殿は乱世の武士には珍しく、ほんに心優しきお方でござりまするな』
『童の頃から綺麗好きで、いつも私の遊ぶ後ろで片付けをしていたものよ』
『して、小平太殿は何を口ずさんでおられたのですか?』
『そ、それは……』
小平太が口ごもった。すると、
『箪笥長持ち、あの子がほしい』
いきなり松姫が歌い始めた。
『もうご勘弁を…』
その歌声にさらに姿勢を低くして、後ずさりを始める小平太。
しかし松姫はそんな彼の前を悠々と歩きながら歌い続けた。
『あの子じゃわからん。相談しよう、そうしよう…』
平伏する小平太にチラッと目を向けるが、それでも頭を地面に擦り付けたまま微動だにしない律儀者の姿に、寂しそうなため息をひとつ。両の肩を小さく落とした。
『なあ、まりも。小平太は一体誰がほしいと歌っているのでしょう。声に出さねば願いは届かないものなのにね』
『お、お戯れを…』
平伏したまま間髪入れず答える小平太だった。
『もう昔のように顔を見て話してはくれないのですね』
『滅相もございませぬ。身分が違いまする』
とたんに松姫の表情が強ばった。
『もうよい!』
慌てたまりもが、
『姫様、下々の者には高貴なお方に対する礼がごさいまする。これ以上のご無理を申しては、小平太殿がお気の毒でござりまする』
『あの頃は身分など感じなんだ!』
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