第1章 出逢い

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先程の曲がり角に着いたが、その人らしき人は探しても見当たらない。 自分の目の前に小刻みに現れる白い息だけが目立ち、周りには楽しげに話しながら歩く人や足早に歩いている人しかいない。 「どうしよう。資料はあれしかないのに。あの人も、手書きってことはこれがないと困るよね」 落し物として警察に届けようかとも思ったが、財布などの貴重品とは違うため、その人が自分の資料を警察に届けてくれるか自信が持てない。 それに男性もこの楽譜が警察に届いているとは思わないかもしれない。 「仕方ない。ここで待ってみよう」 私は男性も同じことを考えてくれることを祈りながら、その曲がり角の端で待つことにした。 寒い中、私の前を多くの人が白い息を吐きながら足早に行き交う。 絶え間なく吹きつける風は今日に限って強く、路地に落ちている茶色の葉を躍らせている。 私は身体が冷えて、指先が痛くなるのを我慢していたが、それでも、だんだん身体が震え、ジッとしていられなくなり、その場で目立たないように少し動きながら待った。 指先に息を吹きかけても手をこすり合わせても全く効果がない。
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