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次の日の朝、いるか君はいつものように朝の会ぎりぎりに走って登校してきた。先生に苦笑されながら教室に入ってきて、何かを探すようにきょろきょろと辺りを見渡す。やがて僕の方をみて、よっ、と手をあげてくれた。クラスの何人かが僕の方を見たけれど、すぐにみんな前を向いてしまう。いるか君はみんなと挨拶を交わしながら、自分の席についた。
その日の中休み、いるか君はまた僕に話しかけてくれた。僕はとても嬉しくなって、にこにこしながら休み中ずっと話していた。途中でいるか君と仲のいい子達がいるか君をドッジボールに誘いに来たけれど、いるか君はまた今度な!と誘いを断ってしまった。僕がその子達にもいるか君にもなんだか悪くなって、僕なんかと話してると、いるか君嫌われちゃうよと言うと、いるか君は、俺はクジラと話してたいの!!と怒ったような顔をしていた。
5、6時限目は水泳の時間だった。この学校は古くからあるため屋内プールはなく、屋外プールでクラスごとに水泳の授業がある。生徒は昼休みのうちに屋外プールに移動し、水着に着替えて授業を受ければならない。
昼休み、クラスのみんなが屋外プールの更衣室に向かう中、いるか君はずっと教室で僕と喋っていた。いるか君は今日の水泳の授業は体調不良のため見学らしい。通常この学校では水泳の授業の見学者はプールサイドのベンチで見学をしなくてはならないのだが、今年の夏は記録的な暑さなため、例外的に見学者の教室での自習が認められている。自習といっても先生がたまに様子を見に来るだけで、勉強をしなければいけないわけではなかった。なので、僕といるか君は2時限分会話を楽しむことができた。
「得した気分だよなー」
いるか君はえんぴつを指先でくるくると回しながら言った。
「こんな涼しい教室で、クジラと喋ってられるなんてさ。なんか、サボりみたいだけどな」
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