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気付いた時には、既に順応していた。
いつから自身がこうなってしまったのか、こうなろうとしてしまったのか。それは当の本人にさえわからない。覚えがない。それ程に自然と、いつの間にか身に着いた能力のようなものだった。
それでも流石に幼稚園に通っているような幼少の頃は、そこまでの判断力は無かった。まさか周りの同い年の友達が皆活字が読めなかったり簡単な数式が解けなかったりするなんて思わなければ、公共で走り回ったり泣き叫んだりすることが周りの迷惑になるということを充分に理解出来ていないなど、思いもしなかったのだ。自分が出来ることは当然周りにも出来ると思い込み、自分に理解出来ることは当然周りも理解出来るものだと疑わなかった。
結果、彼の幼少時代には苦い思い出が多く残ることとなった。だが彼は決してこの思い出を悲観しているわけではない。どこか気味悪がられても、疎外されても、子供特有のいじめを受けても、彼は決して悲しんだり寂しがったり怒ったりはしなかった。
ああ、失敗したんだな。
知能とは比例しないふっくらとした愛らしい子供の面をしながらも、そんなことを不満げに思っていた。
失敗とは言ったものの、彼はここでこの失敗をしたおかげで人類の普遍を知った。それを知って直ぐ、彼はその普遍に順応した。自然と、当たり前のように。日常の中で自身が浮き出ないように、普遍を演じていたのだ。
「退屈だな」
中学生となった彼の独り言の多くはその言葉ばかりだった。学校の行事やテスト、部活動や委員会はそれなりに周りと同じくらい熟してはいるものの、それはまるで彼に達成感や充実感をもたらさなかった。
当たり前に過ごす毎日はまるで変わり映えの無い日々ばかりで。小学生の頃には周りの真似事をして演じることで楽しさを見出していたが、それも三年も続ければ飽きてしまう。四年生になればもう随分と演じることに飽きてしまっていた。それでも一度演じてしまった役からは抜け出すことが出来ず、結局中学に上がってまでもずっとずるずると変わらない日常の中に身を置いていた。
「相変わらず、希望を感じさせない独り言だねー。そんなことばっかり言ってるから、いつまで経っても楽しい事が来ないんだよ?」
あまり良い幼少時代を送って来なかった彼ではあるが、そんな幼少の頃からずっと彼の後ろを付いて歩いていた幼馴染の彼女はそう言う。
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