変化を求める者

3/4

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
彼女特有の、のんびりとした口調に最初こそ一線を引いて接してはいたが、それをものともしない彼女のコミュニケーション能力は見事に彼の引いた一線を飛び越えてしまった。諦めたと言えば好意的には感じないが、少なからず彼女には自身を曝け出している。現に彼は、自身の知能レベルや少し皮肉な性格を彼女には一切隠す事無く接している。現段階ではただ一人だと言っても過言ではない、彼の本性を知る唯一の存在だ。 常に一袋分を鞄にストックし、更にスカートも十本は入れているという彼女の好物の棒付きキャンディー。オレンジ色をしたそれを口にくわえこみ、やはり彼の一歩後ろを歩む彼女はどこか面白くなさそうに唇を尖らせた。 「結ちゃんは、いつになったら満足するんだろうね?いっつも、全然楽しくなさそう。どれだけ球技大会で勝ち上がっても、体育祭で盛り上がっても、文化祭が上手く行っても、テスト期間を乗り切っても。何をしても、いつも何か物足りなさそうだよねー」 「楽しそうにもしてるし、疲労感も達成感も充実感もそれなりに出してるだろ。後、結ちゃんって言うな」 「でもそれって結局、作ってるだけでしょ?周りに合わせて、自分も取り敢えずこうしときゃいいだろー、みたいな。そりゃあ、普段からそんな人相だから多少楽しそうに笑って見せれば皆は誤魔化せるだろうけど、私は騙されないんだからね!」 「別に騙すつもりは最初からねーよ。……騙しているつもりはない。ただ結果、騙す形になっただけで」  中学生になった。周りは成長した。それでも、自身を曝け出して受け入れられるような環境だとは、到底思えなかった。結局怖いのだろう、と。幼少の頃をどれだけ悲観していないと言っても、所詮は子供だったのだ。知らぬうちにあれはトラウマとなり、知らぬうちに今の彼へ根強く制御をかけている。  いっそ開き直れれば、何かが変わるのか。  知力を持て余しているにも関わらず、人より飛び抜けたことを表立ってすることは気がすすまない。かと言って自分の能力に見合った環境下に身を置いてそれを日常と化してしまえば、今度こそ何かを知る楽しみを失う気がして踏み出せない。  日常ではあるが、日常ではない。暴こうとしても暴けない、そんな謎が隠れている日常が最善であり、唯一彼の求めるものだった。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加