変化を求める者

4/4

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
「ねえ、知ってる?」  丸いオレンジ色の飴玉が刺された棒をくるりと回し、どこか寂しそうな彼の背中をじっと見ていた彼女はふんわりと無垢な笑顔を見せる。 「退屈退屈って言う割に日常を捨てきれず、かと言って非日常を諦めきれないワガママな結ちゃんにとっても良い情報です」  彼女が目の前に取り出したのは、一冊のパンフレット。真新しそうな、美しい近代的な校舎の写真が載せられたそのパンフレットを差し出す彼女はどこか自慢げに、嬉しそうに彼へ言う。 「私と一緒にこの学校に行こう!ここに、必ず結ちゃんの求めるものがあるよ」  今渡されたばかりのパンフレット。当然、彼はまだこの学校の情報を一切知りもしなければ、そもそも興味さえ持っていなかった。ただ幼馴染である彼女が何故か自信満々に謳い文句を言っているだけであって、それを真に受けているのかと言えばそんなことは一ミリだって彼にはない。 だが、それでも。彼がこのパンフレットを受け取ったこの瞬間にはもう、全てが決まっていた。  一年後、彼の求めていた日常が手に入ることが。  彼が全てを曝け出す舞台となる場所が。 この瞬間、決められていたのだ。 変化を求める者、緒方結斗の序章。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加