登校

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教室の戸を開けたら、そこには ──ふあふあとした雰囲気を漂わせる小柄な女性がジト目で僕を見詰めていた。 僕の体に穴を開ける気なのかと思うほどに見詰めてくるため、席に向かって素早く動く。 「まってください。久木くん、今日はどうして遅刻したんですか?」 彼女の前を通りすぎる時、狙っていたかのように声を掛けられてしまい、その場で立ち止まることを余儀なくされた。 この質問。 遅刻した学生にとっては殺し文句ではないだろうか。 ちゃんとした理由があれば特には困ることはない。 しかし、遅刻をする───遅刻魔と呼ばれるまでになった僕には寝坊の一言しかないのだ。 ここで素直に「寝坊しました」なんて言ってみろ。確実に先生の可愛らしい怒号が教室に響くだろう。 ん?遅刻したくせに何怒られないと思ってるんだ! って? 確かに。怒れるのは当たり前のことだ。それだけのことをした自覚はある。 だが、社会に出ていくためには上手く失敗を誤魔化していく技術も必要ではないだろうか。いや、必須とまで言える。 「くだらない事考えてないで答えなさい」 ピシャリとそう言い放ち、頬を膨らませて此方を睨んでくる。 これ以上の時間稼ぎは困難を極めるため、熟考時間は数十秒しか残らされていない。 眼を瞑り、顔を天井に向け───答えを導き出した。 「先生……」 「何ですか?」 「僕の年齢、わかります?」 「もちろん。十六歳でしょ」 「ええ、その通りです。だから、ほら、遅刻したのはあれです。あれあれ」 「? なんですか、はっきり言ってください」 「察してくださいよ……十六歳といえばあはんうふんな事に興味がある時期……」 「へ? だから何をしてたんですか?」 「ええ、だからナニをしてたんです」 「?? ナニって……あっ、え、ええと!」
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