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世界を救った勇者が日常生活に空虚を感じるのは無理なき事象ではあるが、だとしても日常にモンスターが現れろなどと願える筈もなく。勇者は日に日に理想と現実のずれに悩まされていった。
そんな勇者に舞い込んだ一報。それは、魔王の憑代からの果たし状だった。大慌てでやってくる宿主すらもボケーっと見続けていた勇者の目に輝きが戻った。
が、その輝きも困惑に包まれることとなる。
「よぉ、久々だな」
勇者の目の前に立つのは、見覚えのある姿。
それは、勇者の唯一のライバルであり、魔王の力により惨たらしい死を遂げた戦士の姿だった。
「お、お前……!?」
勇者は驚愕した。それもそうだ。そもそもあの時の戦士の姿はかろうじて戦士だと判別できる程度のもので、今目の前に立っている戦士は旅をしていた時そのままの姿だったから。
それが、今の魔王の憑代だなんて勇者は思うことが出来ず、勇者は困惑を振り切って戦士に駆け寄った。
その結果、戦士の武器であるロングソードが勇者の心臓を貫いた。
「油断しすぎだろ、勇者ァ」
その眼には、あの日討伐したはずの魔王の眼光。
「わざわざ果たし状に正体まで晒してやったのによ」
勇者はわなわなと戦士の顔を見る。その表情は、戦士のそれではない。
「ま、これで勇者はまた生まれなければいけなくなった。良かったなァ勇者ァ。強くてニューゲームだ」
勇者の体が光に包まれていく。死を迎えているのだ。
「これは俺なりの激励だよ。日々を空しく過ごしていた勇者へのな」
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