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彼の手には、ナイフが握られていた。細身で折り畳み式のサバイバルナイフ。右手に一本。
裾が長いのか少したゆんだズボンの下に、履き慣れた感じの白いスニーカー。全体的に俊敏そうな小柄。
彼の全身を見ながらも、彼の目から視線を外さない。とても見ていたいものではないけど、いつあのナイフが襲いかかってくるか、どの瞬間に私は殺されるのかを把握しなければならない。
私は硬直していた足に命令した。脳からの命令を受けて、革製のナースシューズを履いた足が彼がひとり佇む教室へ踏み込む。同時に私の手は開きっぱなしだった教室の戸を、閉めた。
彼の動きを認識出来たのは、にやりと歪んだ口元が一瞬、スッと息を吸った、その唇の形だけだった。
あとは教室に並ぶ机や椅子をまるで空気のように交わし、私の体に密着するその瞬間まで、彼の姿は私の視界から消えていた。
彼のナイフが、私のどこを切り裂くのか。
彼のナイフが、私をどう終わらせるのか。
彼のナイフが、私をどう血色に染め上げるのか……。
私はそれを頭の片隅で走馬灯のようにチラ見して、彼のナイフを受けた。
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