春色のシーズン

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 教室の戸を開けたら、そこには孤独なヒッチハイカーの姿があった。教卓の上に鎮座し、悩ましげな表情で、親指をこれみよがしに立てている。  ヒッチハイカーは、足を踏み入れた少年と目があうと、軽くウインクを投げた。拾ってよ、と言わんばかりに。  一方の少年は眉をひそめ、めんどくさそうに聞く。 「なにしてんだ? こんな遅くまで」 「見てわからない? ヒッチハイクよ」 「わかるかよ。教室でヒッチハイクするやつなんて今まで見たことねえし」  バカにした顔でヒッチハイカーを一瞥すると、少年は自分の席に向かった。 「で、そういうあんたこそどうしたのよ? もうすぐ下校時刻なのに」 「忘れもの」  少年は机の中からバラの記章をとりだし、制服の胸あたりに安全ピンでとめた。 「じゃあな。おまえもバカやってないで、さっさと帰れよ」 「あ。待って」  去ろうとする少年をヒッチハイカーが呼びとめた。
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