俺はバーテンダー

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 この学校はまるで、一つの街みたいだ。  全寮制の学園。古都、京都は中京区にある明理学園の杏雨キャンパスは、さながら一つの街として機能している。   そんな一つの街で働く俺、綛田莱(カセダライ)。今年で二十五歳。職業はバーテンダー。学内に構えるバーとしては、提携校である東京の学校と並んでいる…はずである。  売り上げも、昨年から成人年齢が十八歳に下がったことから伸びているから良い感じだろう。  バーは、まるでショッピングモールのような建物の地下一階にある。そろそろ午後八時。開店の時間だ。七月の暑さは体力を奪う。夜になっても、うだるような暑さは消えることを知らないでいた。  空調は点けた。音楽も掛かっている。今日も変わらないジャズ。グラスも曇りない。氷の準備も済んでいる。  俺は、CLOSEDと書かれた札をOPENにひっくり返した。この瞬間に、普段の莱から、バーテンダーの莱に切り替わるのだ。今日は珍しく、開店すぐに学生が入ってきた。見たことのない男子学生だ。 「一見さんかい?」 「はい。ちょっと飲みたくなって」 「こちらのお席にどうぞ」  俺はそう言ってカウンターの端、ちょうど自分の前の席に促した。 「ありがとうございます」  青年は躊躇いもなく座る。 「何にしましょう?」 「ジン・トニックを」 「かしこまりました。この辺りじゃ見ないですが、どこの学科ですか?」  話をすることもマスターの仕事だ。そんなことを聞きながら材料を用意する。  ジン・トニックは気軽に作れて、飽きの来ない定番のカクテルだ。単純な作り方だからこそ、力量が試されるカクテルと言っても良い。 【ジン・トニック レシピ】  ドライ・ジン 45ml  トニック・ウォーター 適量  カットライム 1個  タンブラーにドライ・ジンとトニック・ウォーターを入れて軽くステア。そこに六分の一にカットしたライムをエッジに飾った。 「どうぞ、ジン・トニックです。ごゆっくりどうぞ」 「ありがとうございます」  彼はライムを軽く絞って、タンブラーに口を付けた。  口の中を炭酸が駆け巡り、喉をスッと通る。絞ったライムは清涼感を伴い、外にいたときの熱気を冷ましてくれた。喉が潤いを求めていたのか、一口、また一口と飲む。  気づいたら、グラスの半分まで飲んでいた。
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