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「…ここのジントニ、とても美味しいですね」
緊張の糸も解れたのだろう。顔をほわっとさせた。
「僕は、星空学園の学生です」
星空学園、なんともロマンチックな名前だが、これは東京の提携校のことである。彼…昴夜(コウヤ)と名乗る青年はジン・トニックを飲み干して煙草に火を点けようとした。
「すみません、灰皿いいですか?」
「どうぞ。なんでまた明理に?」
キン、とジッポが鳴り、火が煙草に燃え移った。吸っている煙草はJPS。昴夜は静かに煙を吐き出した。
「ここの薬学部に話があったんですよ。ここ、香草とかも育てているんで」
「あぁ、なるほど」
「あとは、教授にも会いたかったというのも」
「…歳は幾つで?」
昴夜は二十歳と答えた。眼鏡をかけて、ジャケットを着ている。二十歳よりも上に見えてしまう感じだ。
「ダイキリを、マイルドな感じでお願いします」
静かな時間が過ぎていく。まだ開店したばかりで仕方のないことだが、久々に骨のある話し相手が出来て嬉しい。
「かしこまりました」
ダイキリは、キューバのダイキリ鉱山で働く鉱山技師が飲んでいたカクテルだ。ガツンとくるアルコールは疲れを吹っ飛ばすこと間違いなしだ。
【ダイキリ レシピ】マイルドの場合
ゴールド・ラム 30ml
ライムジュース 15ml
シュガー・シロップ 15ml
グレナデン・シロップ 1tsp
シェーカーに、メジャーカップで計った材料を注ぎ入れ、氷を入れる。そしてフタを閉めて両手で持ち、テーブルをコンコンと叩いた。これは、これから作りますよという合図のようなものだ。
キンキンと、振る度に氷とシェーカーの衝突音が聞こえる。この間は、手先に集中するため、気が抜けない。
徐々にシェークするスピードを落とし、止めた。冷やしたカクテル・グラスにダイキリを注いだ。通常のとは異なる、少し黄色がかったダイキリだ。
「冷えているうちにどうぞ。東京では何を?」
昴夜はダイキリを一口飲んだ。
「向こうでは物理学を…」
「いえ、違いますよ。専門です」
「………銃を扱ったり、刀を作ったりしてます」
昴夜は、クッとダイキリを流し込んだ。
「へぇ、刀鍛冶、ですか?」
「そんな大層なもんじゃないですよ」
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