第1章 母、困る

3/5
前へ
/5ページ
次へ
昼前だった。次女のカホは日曜でも関係なく部活の練習へ行っていていない。中学三年と言う事もあり夏の試合に向けて頑張っている。 私が言うのも何だが結構自慢の娘だ。一人暮らしをしている長女のチエリとは違い、ガサツさが無い。物を大切に扱うし、綺麗好きで料理も時々手伝ってくれる。それに『私に』似てとっても美人。 悪い虫がつかないかいつも心配している。不良のクソ小僧とか汚い親父が手でも出してこようものならそいつらのイチモツを蹴っ飛ばしてやると心に誓っていたりする。 人前でもしっかりいい子ちゃんを演じてくれるから鼻が高い。 ちなみに夫も休日出勤らしい。ざまあみろ。 そんな訳で家には私と息子のケンジしかいなかった。 椅子に座りながらお気に入りのティーカップで紅茶を飲んで、それが終わったらお昼ご飯でも作ろうかなと思っていた時、彼から相談があると言われたのだ。 真剣な表情だけに直ぐにただ事ではないとその時わかった。そういえば彼は最近様子が変だった様な気がした。 行動とか言動に歯切れが悪いというか、ソワソワしていたというか。まさかとは思ったがどうやらそうらしい。 まるで断腸したかの様な顔でくるのだから負の予想が脳裏をよぎる。 もしかして多大な借金を背負っているのか?それとも隠れてつくった彼女との間に子どもができてしまったのか? 考えてもラチがあかない事は私だってわかってる。そしてもうひとつわかっているのは、どんな事をしても息子である事になんの変わりもないということ。 だから私はどんな衝撃的事実を言われても今までの人生経験ーー主に不幸な出来事ーーを生かして、スッと紅茶を飲み干してからサッとアドバイスや苦言を言ってやる事にした。その方がかっこいいから。 「相談?まぁ座って」 できるだけ静かに、私は紅茶を口元まで持っていく。彼を向かいの椅子に座らせ次の言葉を待つ。さあ来い!借金一千万か?子どもができましたか? 「母さん、相談っていうかなんていうか。これは母さんに言った方がいいっていうか他の人には言えないっていうか・・・」 なかなか言わない彼に少しイラつきを感じながらも私は我慢して紅茶を飲む準備をしていた。 下を向いていた彼は決心したのか顔を上げた。汗が凄かった。 「俺、実は妹の事。カホの事が好きなんだ!!」 私は紅茶を全部こぼした。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加