第1章 母、困る

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スッと飲み干してる場合ではなかった。 その時私は全ての機能を止めて、考える事だけに全精力を費やした。 聞き間違い?いや私はそんなに耳は遠くないはず。最近老眼が徐々に来ているけど耳はさすがにない。 それに彼は冗談を言うような人間ではない。それは親の私が十二分に知っている。 母さん!こぼしてる!と、その声で我に帰った私は息子が持ってきた台所の布巾で下半身にぶちまけた紅茶を素早く吸い取った。 その時も手が震えてしょうがなかった。 まだ下半身に残る違和感を感じながら私は整理した。 整理して思う。もうヤダ。 紅茶を拭いてから息子は席に戻りだんまり。リビングには沈黙が訪れる。 だが私の心情は全く沈黙してなかった。 妹が好き?は?いや、さっき私褒めたけどなんであんたが惚れるの?カホの紹介がうまかったから思わず惚れてしまった?ンなわけあるか。 確かにケンジは不良じゃないしもちろん汚い親父でもない。むしろ向井理似の爽やかイケメンだ。 まあそれは言い過ぎだけどでもケンジは昔からモテた。 高校生になってからは流石にないが小学校の頃はよく女の子をウチに連れてきて遊んでたっけ。 三人くらい呼んでまぁチヤホヤされてたな。 中学じゃバスケ部で頑張ってて、あっ思い出した!そういえばあいつの部屋を掃除してた時本棚からラブレター見つけたっけ。それも五枚も。 でも誰かと付き合ってる風には見えなかったな。それにいつ別れたんだろうか? ん?よくよく考えたら長男も次女も悪くないんじゃないか?(長女は残念な奴だけど)て事は可愛い可愛いカホを何を考えているかもわからない男に渡すよりケンジとくっつけた方が良いのでは?って馬鹿か私は! 危ない危ない。危うく娘をよろしくお願いしますしてしまうところだった。 兄が実の両親に向かって娘さん(妹)をくださいとか言ってる図を思い浮かべると何だが滑稽だけどね。 緊張してるから長く感じるけど恐らくはものの数十秒の沈黙。 それを私から破る事にした。バイバイ、沈黙さん。 「で、いつからなの?」 「え?何が?」 はぁとため息をついて再度問う。 「だから、いつからカホの事そんな風に思い出したのって言ってんの」 それを言われてケンジは視線をあちこちに巡らせてもじもじしだす。
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