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一
「やあ、ハーレイジ・コルニア。私が脱出する為にはなにが必要だろうか? 私はやはりグリモワールを助けたいのだが! うん? コルニア?」
ハーレイジ・コルニア、二十七年の人生でグリモワールと話したのは初めてではなかった。魔術図書館の管理室で珈琲を飲みながら微睡んでいたのだが、現れた人形グリモワールにより心地好い気分は過ぎ去った。猫毛の金髪を指で絡め、そばかすのある鼻を鳴らした。
「前にも言ったろう、不用意に出歩けば他のベネディクトに見付かると。それに、グリモワール、日に日に姿が変わっているな?」
グリモワールは黒髪で、身長は百六十程度の青年であった。初めて出会った頃から一年は経ったが、未だに図書館からは脱出出来てはいない。それはグリモワールが逃げようとしていないからであり、況してやそれを阻止しようとハーレイジ・コルニアがしているからでもない。単純にグリモワールがグリモワールを思い、留まっているのだ。
「この姿は以前の姿が不便で、魔術を削いでみたんだが、人間になっているか?」
「本なら好きに読め、出て行くなら行け、わたしは知らん。ああ、人間になれているかだったな、答えはNOだ」
「何故だ?」
「目だけしかない顔で喋るな、気持ちが悪い」
珈琲を飲み、安楽椅子でぼおっとするのを邪魔された恨みもあり、ハーレイジ・コルニアは辛辣であった。
次の日である。
「ハーレイジ・コルニア、私です。言語の調整をしてみましたよ。どうでしょうか、色々な魔術が要らないと分かり、かなり削りましたよ」
ハーレイジ・コルニアは珈琲を雑多な机に置き、安楽椅子を揺らしながら言う。
「黙れ鸚哥。最早人でもないな」
「人である事は不便ですからね、もうこれなら楽かなと」
翼を広げ、鸚哥は流麗に喋る。
「グリモワール、本体は何処だ」
「本体。ああ本なら仕舞っていますよ」
「逃走時にどう持ち運ぶ?」
「……成る程」
鸚哥は頷いた。
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