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☆☆☆
それから一階へ着くまで野田さんはなにもしゃべらなかった。
自分の愛した女性がしてきた事を考えて、落ち込んでいるのかもしれない。
こんな時なんと声をかければいいかわからなくて、あたしはずっと下を向いていた。
野田さんから伝わってくる手の震えはいつの間にか消えていたけれど、その手が離れることはなかった。
チーンと小さな音がしてエスカレーターが一階へ到着した事を知らせる。
このまま野田さんと一緒に返ってしまってもいいんだろうか?
そう考えた時、目の前のドアが音もなく開いた。
そして……目の前に現れた男性の集団にあたしの思考回路は一瞬にして停止してしまった。
「こっちだ!」
野田さんにグンッと引っ張られ、あたしはよろけながらエスカレーターの外へと出た。
そして男性たちの間を縫うようにして走り、なんとかトラックまでたどり着いた。
「な……なんなんですか、あの人たちは?」
男性たちにもみくちゃにされないようにトラックの中に逃げ込んだあたしは、すぐにそう聞いた。
エスカレーターの前にいた男性たちの列はマンションの外まで続いている。
野田さんは軽く息を吐き出して「全員ひよりさんが遊んでは捨てて行った男性たちだ」そう言ったのだ。
あたしは目を丸くして男性たちの列を見つめる。
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