第三話

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あたしだったら死んでからも動き続けるなんて絶対に嫌だ。 自分が腐って行くのを自分の目で見ているなんて、きっと耐えられない。 「この犬は魂が抜けていないから動いてるんですよね? それなら、野田さんが成仏させてあげるんですか?」 「いや。今回はこの犬を自分のお墓に入れてほしいと、死んだ飼い主から依頼があって探し出したんだ」 飼い主さんはもう死んでいるのか。 「優しい飼い主に会えれば、きっと犬の魂は自然と抜けていくだろう」 野田さんの言葉に、あたしは一瞬ひっかかりを感じた。 優しい飼い主? 飼い主が優しければ犬はこんな状態になることはなかったんじゃないだろうか? 「野田さん、どうしてこの犬は魂が残ってしまったんですか?」 そう聞くと、野田さんは眉をしかめて暗い表情を浮かべた。 その顔はまさに死神そのもので、思わず背筋が寒くなった。 「虐待だよ」 「虐待……? でも、さっき優しい飼い主って言いましたよね?」 「あぁ。死んだ飼い主さんは確かに優しい人だった。その後この犬は別の人に飼われることになって、その相手から虐待を受けていたみたいなんだ」 あたしはしつこくシッポを振っている犬に視線を向けた。 遊んでもらえると思って喜んでいるのかもしれない。 自分がすでに死んだことにも気が付かずに……。
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