第三話

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☆☆☆ お墓は丘の上の開けた場所にあった。 沢山の墓地が並ぶ中に犬を放つと、犬は一目散に1つの墓地の前まで走って行った。 自分を愛してくれていた人がどこで眠っているのか、すでに分かっているようだった。 「動物ってすごいですね」 その様子を見てあたしはそう呟いた。 「あぁ。人間にはない、もしくは、人間が失ってしまった能力を持っている」 遠くから墓地の様子を見ていると、犬が駆け寄ったお墓が黄色く輝き始めた。 今までに2度ほど見たことのある、あの光だ。 そして、その中にぼんやりと人影が浮かんでくる。 白髪で少し腰の曲がった、優しそうなおじいさんだ。 「あれが飼い主さん?」 「そうだ」 犬は千切れそうなほど勢いよくシッポを振り、そのおじいさんに飛びついた。 おじいさんは犬を抱き上げて自分の光の中へと入れると、犬は生前の姿を取り戻して行く。 白いフサフサの毛に、大きな目をしたチワワだ。 チワワはおじいさんの手に抱かれ、その顔をペロペロとなめた。 おじいさんは視線を上げてあたしと野田さんを見ると、深くお辞儀をしてチワワと共にスッと消えていった。 「……行っちゃったんですね」 お墓の前には犬がいた痕跡すら残っていない。
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