第1章

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そう考えるだけであたしのやる気はどんどん失せていく。 「今日は俺が奢ってあげるよ。マオリちゃんはまだ給料が出てないからね」 野田さんはそう言いながら嬉しそうに助手席のドアを開けた。 でも、あたしはトラックに乗るのを躊躇した。 いなくなったクラスメートの顔が、また思い出されてくる。 こんなわけのわからない人の車に乗るべきじゃない。 そんな警告音が心の中で発令しているのがわかる。 あたしの気持ちを察したのか、野田さんがなにか思いついたようにダッシュボードを開けた。 「不安なら、これでも付けとく?」 そう言って取り出したのは汚れた防犯ブザーで、野田さんが茶色くなった紐を引っ張るとけたたましい音が周囲に鳴り響いた。 あたしはその音にビクッと跳ねあがり、野田さんは慌ててブザーを止めた。 「ほ、ほら。これなら心配ないだろ?」 そう言いながらブザーを差し出す手は少し震えている。 自分でもこれほど大きな音が出るとは思っていなかったのだろう。
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