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☆☆☆
それから野田さんはポケットからハンカチを取り出すと、自分が触れた場所を丁寧に拭き取って行った。
その間、あたしはジッと愛由の死体を見つめていた。
どれほど怖くて、痛くて、つらい思いをしたんだろう。
愛由の強い憎しみが体から離れる事なく、こうして犯人の元へ戻って来ることになった。
生死の壁を超えるほど大きな感情が、愛由の中に存在していたのだ。
だけど、愛由の寝顔はとても穏やかだった。
すべてを終えてようやく休むことができた。
そんな、少しほほ笑みをたたえた寝顔だった。
「さぁ、行こう」
すべての処理を終えた野田さんがあたしの肩に手を置いた。
あたしは愛由から視線を外さずに「はい……」と、小さく頷いた。
できればこのまま愛由から離れたくない。
そんな気持ちが湧いてくるが、愛由の願いは男の罪を公にすることだ。
ここにいるわけにはいかない。
野田さんに促され、あたしはようやく重たい体を動かし始めた。
たった数十分の間で一気に年を取ってしまったように、体はズッシリと重たくて疲労感がある。
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