第4話

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あたしは生前のシロの姿を思い出していた。 普段はおとなしく来客にも吠えないシロだったけれど、一度だけ相手へ向けて激しく吠えた事がある。 あれはあたしが小学校低学年の頃、シロの散歩に出ていた時のことだった。 いつも通り決められた道を歩いていると、不意に目の前に大きな犬が現れたのだ。 その犬はシロよりもふた周りほど大きく、その顔は狼に近かった。 狼と犬を掛け合わせた品種であると言う事は、その外見を見てすぐに理解した。 どうしてこんな所に野放しで狼犬がいるのか、あたしの思考回路は真っ白になった。 狼犬は自分の縄張りに入ってくる物を攻撃する事があり、時に危険な顔を見せる事は知っていた。 つい最近狼犬にかみ殺されてしまった人がいるのだと、ニュースでも聞いたばかりだったのだ。 あたしは足がすくみ、動けなくなっていた。 当時は携帯電話なんて持っていなかったし、逃げようと思ってもここは一本道で、狼犬に背中を向ける事も怖かった。 あたしとシロは狼犬の前でジッと立ちつくす形になってしまったのだ。 その時、狼犬がジリジリとこちらへ向けて動き始めたのだ。 体を低くし、獲物を狙うようにジッとこちらへ鋭い視線を向けている。 いけない! 心の中でそう思うが、恐怖で足が動かず逃げる事ができなかった。 と、その時だった。 シロが大きな声で吠えたのだ。
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