40人が本棚に入れています
本棚に追加
「連れて行って……」
女性はなおもあたしに訴えかける。
連れて行くって、どこへ?
野田さんなら幽霊と普通に会話もできるのだろうけれど、あたしにはまだ無理のようだ。
一方的に、しかも断片的にしか相手の言葉を聞く事ができなくて、歯がゆくなる。
だけど、女性は野田さんではなく、あたしを頼りにしているんだ。
あたしがしっかりしなきゃ女性は救われないのだろう。
そう思い、あたしは女性の言葉に耳を傾けた。
「思い……出させて……あの人に……」
女性はそう言うと、あたしの右手にそっと触れた。
触れられた部分が焼けるように熱く、心の中で悲鳴を上げる。
しかしやはりそれも声となって自分の口から発せられることはなく、あたしはそのまま意識を失ってしまったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!