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☆☆☆
「東能さんって何者なんだろう……」
トラックに揺れながらあたしはそう呟いた。
「本当に、何も思い出さないのか?」
野田さんが真っ直ぐ前を見て運転しながらそう聞いてくる。
あたしは何度も東能という苗字に記憶を巡らせていたけれど、誰一人として思い出す顔はなかった。
「なにも……」
あたしはそう言って左右に首をふった。
いや、だからこそ『思い出して』と言っているのかもしれない。
「住所だとこの辺だな」
車を1時間ほど走らせた場所で野田さんがそう言った。
一旦路肩に停車して住所を確認する。
スマホのナビに設定した場所はたしかにこの付近を指している。
しかし周りは田んぼと山と川しかなく、どこにも民家が見当たらないのだ。
「もしかして、もう取り壊されてしまったとか?」
あたしは呟く。
お墓を見る限り、東能さんが亡くなったのは15年も前の事らしく、生前の家がなくなっていても不思議じゃない年月が経過していた。
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