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「これじゃ振出しか……」
野田さんがため息交じりにそう呟いた時、田んぼに人影が見えた。
麦わら帽子を被って腰のまがったおじいさんが、なにか作業をしているのだ。
「ちょっと、行ってみるか」
野田さんがそう言いトラックを下りた。
あたしも慌ててその後を追いかける。
田んぼを持っていると言う事は地元の人の可能性が高い。
何か知っているかもしれない。
そう思い、期待で胸が膨らむ。
「すみません!」
死神のような野田さんが声をかける前に、あたしがそう声をかけた。
死神が迎えに来たと勘違いして腰をぬかすかもしれないと懸念したからだ。
「なんだい?」
おじいさんは腰をあげて田んぼの中から返事をした。
「少し聞きたいことがあるんです!」
「聞きたいこと?」
おじいさんはそう言い、ようやくこちらへ近づいてくる。
「昔、この辺に東能っていう苗字の人が住んでいませんでしたか?」
「東能? あぁ、いたよ」
おじいさんは不思議そうな顔をしながらも、そう頷いた。
「家がこの辺にあってね、今じゃもう取り壊されたけれど、綺麗な女の人と結婚して子供も1人いたよ」
昔を懐かしむようにそう言うおじいさんにあたしは「え?」と、目を丸くした。
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