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「東能って、男性だったんですか?」
「ん? あぁ。東能昌史(トウノウ マサシ)の事を言っているんじゃないのかい?」
「東能昌史……」
その名前を復唱してみても、やっぱり聞き覚えはなかった。
「子供まで、いたっていうのは?」
「あぁ。女の子がいたよ。子供の名前はちょっと覚えてないけど、旦那さんのいいところと奥さんのいいところをもらって生まれて来たような、とてもかわいい子でねぇ……だから、奥さんが死んだときはそりゃぁ可愛そうだったよ」
おじいさんは目を細めてそう言った。
「15年前……ですよね?」
「もうそんなに経つかなぁ?
幼い子供を残して交通事故で突然死んでしまったから、旦那さんは家にこもるようになっちゃってねぇ……。いつの間にか、この町からいなくなってたんだよ」
「引っ越したってことですか?」
「おそらくそうなんだろうけど、何も言わずに子供を連れて出て行ってしまったから、何もわからないんだよ。もしかしたら、もう……」
そこまで言っておじいさんは口を閉じた。
その後の言葉はとても口にできなかったのだろう。
あたしは小さくお辞儀をしておじいさんと別れた。
「東能さんは事故死だったんだ……」
トラックへ戻り、あたしは呟く。
「突然の死だったから、今でも成仏できずに彷徨っているのかもしれないな」
野田さんはそう言い、顎をさすった。
だけど、ここまで来てもやっぱりあたしとの関係性は見えてこない。
「次は東能昌史さんについて調べてみようか」
あたしは、頷いたのだった。
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