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「あたしのお父さんは、あたしを捨てたんだって聞かされています。お母さんが突然死んでしまって、気がおかしくなったんだって。
お墓を中途半端な森の中に立てたのも、お父さんです。死者は暗いところの方が出て来やすいだろうからって、変な理由を付けて反対を押し切って立てたんです」
麻葉の言葉にあたしはお墓があった場所を思い出していた。
ちゃんとした霊園から離れ、草に覆われた不気味な場所。
お墓はあえてそこに立てられていた。
「お父さんはまだ生きているってこと?」
あたしがそう聞くと麻葉は「うん」と、頷いた。
「全然会ってないし、精神病を患って閉鎖病棟に入院しているって聞かされてる。会ってもあたしの事なんてわからないだろうし、子供を捨てた親に会う必要はないって……」
麻葉の声はどんどん小さくなっていく。
そこまでして麻葉と父親を遠ざけているなんて、育ててくれている親戚は母方の親戚なのかもしれない。
意図しなかったことだとしても、自分の身内を早くに死なされ、おまけに気がおかしくなった昌史さんに麻葉を会わせる事はできなかったんだろう。
「連れて行って……思い……出させて……」
東能リナさんの苦しむような声が聞こえてきて、あたしは軽く身震いをした。
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