第1章

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☆☆☆ それから数時間後。 野田さんはようやく警察から解放され、疲れ切った顔でリサイクルショップへと戻ってきた。 野田さんなんてほっといて家に帰ろうかとも思ったのだけれど、あたしのせいで警察に行くことになった野田さんに何の挨拶もなしに帰るということもできなくて、あたしは仕方なくお店の従業員スペースで帰りを待っていたのだ。 「お帰りなさい、野田さん」 シレッとそう言うと、野田さんはあたしの顔を見るなり怒りを含んだ表情へと変化していった。 「マオリちゃん、君はなんてことしてくれたんだ! おかげで俺は変態呼ばわりだぞ!」 「なに言ってるんですか、あたしは駆けつけた人たちにちゃんと誤報だと伝えましたよ? それでも警察を呼ばれてしまったと言う事は野田さんの見てくれが明らかな不審者だったからじゃないですか」 あたしはムッとしてそう言い返した。 ストーカーな野田さんをフォローしてあげたあたしは悪くないはずだ。 野田さんは何か言い返そうと口を開いたが、そんな気力もすでにないのかそのまま黙って椅子に腰かけた。 野田さんのあまりの気力喪失っぷりにさすがに不安になったあたしは、「これ、返しておきます。また気が動転してブザーを鳴らしてしまうかもしれないので」と、あたしはテーブルの上に野田さんから受け取っていたブザーを置いた。 『気が動転して』と説明した所にあたしの優しさが含まれている事を、理解してほしい。
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