第1章

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う~ん。 確かに野田さんの言う通りだ。 信用していればブザーを大切に受け取ったりする必要もなかったし。 ましてや使う事なんてありえなかった。 あたしは野田さんを信用していない。 全く、豆粒ほどにも信用していない。 あたしは言い返す事ができなくなって、仕方なく椅子から立ち上った。 これ以上聞いても無駄だろうし、夕暮れ近くなったのでさっさと帰ることにする。 「どこへ行くんだ?」 「もう聞く事もないので帰ります」 あたしはそう言い、裏口へ続くドアを開く。 「ちょっと待て」 野田さんに手を掴まれて、一瞬悲鳴を上げそうになったがどうにかそれを喉の奥へと押し込んだ。 よし、よく耐えたあたし。 そう思っていると野田さんがスーツのポケットから白い封筒を取り出してあたしの手に乗せた。 「なんですか、これ」 「今日の給料だ」 そう言われあたしは野田さんを見た。 野田さんは冗談を言っているようには見えない。
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