第1章

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「今日あたしは野田さんと2人で親子丼を食べただけですよ?」 そう言うと、野田さんは顎で店の方を指した。 あぁ……気づいてたんだ。 「外から見たら、店内がやけに綺麗になってた」 「もし今日野田さんが警察に掴まったら、商品がホコリを被ったままでかわいそうだと思ったからです」 あたしはそう言いながら野田さんから視線を逸らした。 至近距離で見ていると野田さんの大きな目が少しだけ魅力的に見えて、ドキッとしてしまったからだ。 「ありがとう」 「……いいえ」 あたしは野田さんから手を離し、ドアを出た。 給料袋をギュッと握りしめ、夕暮れの街を早足に歩いて行く。 そしてふと気が付いた。 給料袋を持っている逆の手に、野田さんから受け取ったハタキが握られていると言う事に。 それに気が付いた瞬間、あたしは歩調を緩めて肩の力を抜いた。 自然と笑いが込み上げてくる。 今日1日あたしはこのハタキを持って移動していたのだと思い出し、おかしくなった。
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