第1章

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幽霊だのなんだのと非現実的な事を言い出したかと思えば、今度は『返す』とか。 あたしは今すぐにでも家に帰りたいけれど。 それとは違うようだ。 「依頼主は生きている親族や友人などになにかを『返して』ほしくて俺の所に来る。そしてそれを『返す』のが、俺の仕事」 「ちょ、ちょっと待ってください。『返す』って、一体何を『返す』んですか?」 「そうだなぁ。たとえばこの前は子供の頃の写真を『返した』よ。両親が早くに亡くなってずっと施設育ちだった人が無事に就職したんだ。 そのお祝いがしたいと現れたご両親の幽霊が、昔使っていた家まで案内してくれて、まだ残っていた沢山の家族写真を『返しに』行った」 なるほど。 なんだか少しいい話に聞こえて来た。 「その、依頼者からのお給料はどうなるんですか?」 「もちろん、ちゃんといただくよ?」 「でも、依頼主って死んでいるんですよね? お金なんて、持ってないですよね?」 「あぁ。現金で受け取ることは滅多にないよ。だけど死んだあとでも残っている骨董品や貴金属をもらうんだ。 もちろん、ちゃんと依頼主立ち合いでどれをどれだけ受け取るか決めてる。俺みたいな職業のやつは他にいないから、土地や現金以外のほぼ全財産をくれる人が多いんだ。だからマオリちゃんの時給が高くても大丈夫」
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