第1章

40/70
前へ
/250ページ
次へ
女性がトラックの前をゆっくりと通り過ぎて行く。 「行くぞ」 野田さんがそう言い車から下りた。 あたしもその後に続く。 女性は真っ直ぐデパートの中へと吸いこまれて行く。 「見失わないように、だけどバレないように追跡するんだ」 野田さんがそう言い、自然な感じで女性の後を追う。 「マオリちゃんは俺の妹のフリをして隣を歩けばいい。時々『お兄ちゃん』と声をかけてくれた方が周囲からすれば自然かもしれないな」 そう言う野田さんに、あたしは思わず顔をしかめてしまった。 こんな変人なお兄ちゃん欲しくない。 しかし今日ここまで首を突っ込んだのはあたし自身だ。 帰ろうと思えば帰るタイミングはあったんだから。 仕方なく野田さんに付き合い、時々「お兄ちゃん、こっちのお店が見たいなぁ」なんて言いながら、女性の後を追いかけた。 当然ながら女性もののコーナーばかりを見て回るものだから、野田さんがあたしを必要とする意味がようやく理解できた。 女性は好きなお店を行ったり来たりしながら服屋バッグを選んでいる。
/250ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加