第1章

48/70
前へ
/250ページ
次へ
「どうしてこのお店をしてるんですか?」 「『返す』仕事をしていると、今回みたいに浪費癖のあるお客さんを担当することもよくあるんだ。ゴミ捨て場には宝が眠っていると思うと、ついつい拾って来たくなっちゃってね。いつの間にか店が開けるまでになったんだよ」 野田さんはなぜだか誇らしげな表情を浮かべてそう言った。 だけど、言い方を変えればゴミ屋敷の住人になる可能性があったと言う事だ。 野田さんの場合は偶然お金があって、お店を開こうと考えられただけで、思考回路にきっと大差はない。 だけど、このままお客さんが来なくて野田さんの拾い癖が治らなければ、このお店自体がゴミ屋敷になってしまう。 そう考えたあたしはハタキを持ってスッと立ち上がった。 「どこへ行くんだい?」 「お店の商品を綺麗にしてきます。新しく拾ってきたゴミたちを蘇らせて、ちゃんと買ってもらえるようにするんです」 そうしなきゃ、お店がゴミで埋もれてしまうから。 「おぉ! それは助かるよ! さすが、俺が認めた女だな」 野田さんに認められるほど不名誉なことはこの世に存在しないんじゃないかと思う。 だけどあたしは無視をして、ゴミ袋を手に取った。 「ん? どうしてゴミ袋が必要なんだ?」 「商品になる物とならない物の仕分けが必要だからです。じゃ、行ってきます」 「ちょっと待ってくれ! どれも大切な商品で……!」 そう言う野田さんの言葉を遮るようにあたしは従業員ドアを閉めたのだった。
/250ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加