第1章

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男性はニコニコと愛想のいい笑顔を浮かべているが、それが逆に怪しくも見えてくる。 あたしの住んでいる県の最低自給は750円だ。 学生なら大抵その時給でバイトをしている事が多い。 それが1200円というのはかなりの高額賃金だ。 こんなお客さんも来ない小さなリサイクルショップでそれほどの時給が出るなんて、信じられない。 「あ、何その顔。疑ってる?」 疑いが顔に出てしまっていたようで、あたしは慌てて作り笑いを浮かべた。 「まぁいいや。そんなに疑うのなら明日面接をしよう。履歴書を持ってまたおいで。時間は君の好きな時で、日没までに来てくれればいいから」 「好きな時間って……そんなのでいいんですか?」 普通、お店の空いている時間とか仕事の間とかを指定して来るはずなのに……。 「あぁ、大丈夫大丈夫。昼間は大抵暇だから、この店」 男性はそう言い、ニカッと笑うと黒いスーツの内ポケットから名刺を一枚取り出した。 「これ、一応名刺ね」 あたしは名刺を両手で受け取ると男性の名前を確認した。 野田圭哉(ノダ ケイヤ)……。 「じゃ、また明日ねぇ」 男性が手を振る中、あたしは適当に会釈だけして店を出たのだった。
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