第1章

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☆☆☆ それからお店まであたしは休まず走り続けた。 背中は汗でビショビショに濡れて、髪の毛が頬にへばりつく。 そして肩で大きく呼吸を繰り返しているあたしを見て、野田さんは口に入れかけていたウインナーを事務所の床にボトリと落としてしまった。 どうやら野田さんは夜食の最中だったようだ。 「時間通りに……きましたよ……」 ぜぇぜぇと荒い呼吸を繰り返しながらそう言うと、野田さんはハッと我に返ったように「うん……」と、頷いた。 あたしは倒れ込むようにして事務所の床に寝そべった。 リノリウムの冷たい床が心地よい。 「大丈夫か?」 野田さんがペットボトルのお茶を持ってあたしの横にしゃがみ込んだ。 一瞬、野田さんが口を付けた後のお茶なら飲まない方がマシだと思ったけれど、そのお茶は蓋が開けられていないようだったのであたしは素直に受け取った。 上半身だけ起こしてその場に座ったままお茶飲む。 コンビニでもどこでも手に入るお茶が、今はとてつもなく美味しく感じられる。 一気にペットボトルの半分ほどの飲み終えて、あたしは大きく息を吐き出した。 冷たくて本当においしい……。
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