第1章

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☆☆☆ 家に帰ってからあたしは男性にもらった名刺を読み直していた。 野田圭哉。 リサイクルショップの店長。 それに携帯番号が書いてあるだけのシンプルな名刺だ。 「時給1200円なんて、どうせ嘘だよね」 あたしはそう呟き、名刺をテーブルの上に置いた。 少し気になるけれど、埃だらけの店内を思い出すとあそこでバイトをするという気は失せていく。 「あたしなら、女の子向けのコーナーと男の子向けのコーナーをしっかり分けて、埃も綺麗にとって……」 店内を思い出してブツブツとそう言いながら、勉強机に向かう。 夏休み前にはテストもあるし、今から勉強しておかないと追試なんて事になったら夏休みが潰れてしまう。 「照明ももっと明るくして、お店のイメージを変えれば売れるものもきっと沢山あるのに……」 教科書を前にしながらそう呟いて、ふと視線を上げた。 なんだかあたし、さっきからあのお店の事ばっかり気になっている。 そしてチラリと部屋の真ん中にあるテーブルに視線を向けた。 その上には野田さんの名刺が1枚置かれている。 「行くだけ、行ってみようかな……」 そう呟く。 「気になったら勉強もはかどらないし、明日行くだけ! 受かっても断ればいいんだし!」 自分にそう言い聞かせるように呟いて、あたしは勉強に集中したのだった。
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