第1章

67/70
前へ
/250ページ
次へ
「安心してください。俺はあなたのご両親に頼まれて、あなたが捨てて来たものを返しにきました」 野田さんが優しい口調でそう説明するが、そんなのすんなり受け入れてくれるはずもない。 金崎さんは更に激しく抵抗し、今にも野田さんの手がはずれてしまいそうだ。 このままじゃ悲鳴を上げられてあたしまで犯罪者になってしまう。 そう思ったあたしは咄嗟に玄関まで走り、野田さんと一緒に運んできた荷物を1箱持ってきた。 「これがその証拠です」 あたしはそう言い、段ボールの箱を開けた。 その瞬間。 あたしと金崎さんは同時に目を見開いた。 開けた段ボールの中に入っていたのは、幼い女の子用のおもちゃや、小さな子が描いた絵だったのだ。 あたしはてっきり服や鞄が入っているのだと思っていたので、次の言葉が出てこなかった。 しかし、それに反して金崎さんは抵抗をやめ、そっと野田さんの手を自分の口から外した。 「それ……どうして?」 なんだか泣きそうな顔をしながら段ボールの中を見る。 「それはあなたが幼稚園の時に使っていたおもちゃや、小学校の時に書いた家族の絵です」 野田さんが説明すると、金崎さんはベッドから下りて段ボールの中の物たちを懐かしそうに手に取った。 「あなたのご両親はあなたの私物を大切に大切に保管していたようですね」
/250ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加