第1章

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「俺の仕事は忘れ物を届けるだけだからな。後は親子の話し合いでどうにかなる」 そう言い、マンションの部屋を出た。 「で、でも! どうして幽霊が見えたんですか? あたし、霊感なんて全然ないのに……!」 「あぁ。それは俺が一緒にいたからだな」 「野田さんがいたから……?」 「そうだ。霊感の強い人間と一緒にいると霊が見える体質になるっていうだろ? 幽霊が自分の姿を相手に見せたいと強く願う気持ちと、俺の霊感を重なり合わせて他者にもその姿が見えるようにしている」 なんだかわかるようでわからない説明で、余計に頭が混乱してしまう。 「それってもしかして、その辺にいる幽霊でもできたりします?」 「もちろん。だけど浮遊霊たちは自分の姿をどうしても相手に見せたいなんて思っていないから、まず見えないだろうね」 その言葉にあたしはホッと胸をなで下ろした。 どこでもかしこでも幽霊が見えるようになったら、たまらない。 「ま、これから先マオリちゃんは俺の右腕になるわけだから、嫌でも霊感は付いてくるよ」 そう言って高らかに笑う野田さんに「だから、バイト決めたわけじゃないです!!」と、あたしは大きな声で反論したのだった。
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