第1章

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あたしは戸惑いながらもその手を握った。 なんだか妙な挨拶になってしまった。 これじゃアルバイトをすることが確定してしまったように見える。 そう思い、あたしはすぐに野田さんの手を離した。 「あの、面接は……」 「あぁ。そうだったね。はい、座って」 そう言うと、野田さんはお店に飾られていた大きな椅子をあたしの前に置いた。 それはヨーロッパ調の立派な椅子だったが、野田さんがクッション部分をはたくとホコリがまいあがった。 「いえ、立ったままで大丈夫です」 あたしは苦笑いでそう返事をした。 「そうか。じゃ、履歴書を見せてもらうよ」 そう言われて、あたしは鞄から今朝書いたばかりの履歴書を取り出した。 さすがに少し緊張する。 そう思っていると、野田さんは履歴書を見て 「西岡マオリちゃんって言うんだね。じゃぁ、マオリちゃんって呼ぶからね」 と言うと、他の部分は見ずに封筒へ戻してしまったのだ。 「あ、あの……?」 「マオリちゃん、今日から出勤できる? いやぁ、人でがなくてね。なんてったって俺1人でこの店を切り盛りしてるから大変なんだよね」 ハッハッハッと豪快な笑い声を上げる野田さん。 え? まさか今ので面接終了ってこと?
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